Rust の便利クレート itertools の文字列連結メソッド join が遅いという噂を聞いたので、かんたんに検証をしてみました。

TL;DR

Rustで、

「文字列(String or &str)のベクタなどに対して、何らかの処理を施した上で、スペース区切りで連結したい」

というような状況は時たま出てくるかと思います。

これを実現する方法は何通りも考えることができ、そしておそらく最もシンプルかつ可読性が高い方法は itertools - crates.ioitertools::join メソッドを使うことだと思います。

が、 itertools::join は他の方法に比べてパフォーマンスが結構悪いです。

パフォーマンスを求める場合は、以下のようにいったん collect でベクタにしてから join するのが良さそうです。

YOUR_ITERATOR.collect::<Vec<_>>().join(" ") // ベクタにしてから join する

ベンチマークをとる

ベンチマークをとって調べてみましょう。bencher を利用します。

シチュエーションとしては、「\tRust\tが1万個含まれるベクタを用意して、それぞれの先頭と末尾のタブ文字を消去した上で、", "区切りで連結した String を作る」というような感じにします。

(わざわざtrim処理を入れなくても測定はできると思いますが、今回はtrim処理を入れたため、このあと出てくる処理速度の数値などは絶対的なものではなく、相対的な評価・比較をするためのものだと解釈いただければと思います。)

手法一覧

以下の手法説明中では、「\tRust\tが1万個含まれるベクタ」として、以下のように作った静的変数を使用します。(ベクタではなく配列ですが……)

static STRS: [&'static str; 10_000] = ["\tRust\t"; 10_000];

エントリーナンバーA: collect してから join

fn a(bench: &mut Bencher) {
    bench.iter(|| -> String { STRS.iter().map(|s| s.trim()).collect::<Vec<_>>().join(", ") })
}

itertools を使わない場合はこの方法がオーソドックスかな?と思います。ベクタを経由する必要があるのがちょっとエレガントさに欠ける印象。

エントリーナンバーB: itertools::Itertools::intersperse を使う

fn b(bench: &mut Bencher) {
    use itertools::Itertools;
    bench.iter(|| -> String { STRS.iter().map(|s| s.trim()).intersperse(", ").collect() })
}

itertools::Itertools::intersperse を使います。要素と要素の間に別の要素を入れてくれるメソッドです。そのあとイテレータを直接Stringにcollectします。

エントリーナンバーC: fold (Stringのキャパシティを指定しない)

fn c(bench: &mut Bencher) {
    bench.iter(|| -> String {
        STRS.iter()
            .map(|s| s.trim())
            .fold(String::new(), |mut acc, cur| {
                acc.push_str(cur);
                acc.push_str(", ");
                acc
            })
    })
}

fold を使ってイテレータの要素を1つずつpushしていきます。めっちゃ手続き的ですね。

なお、エントリーナンバーC, D, Eは、連結後の文字列の末尾に余計な ", " がついてしまいます。 ( "Rust, Rust, Rust, Rust, "みたいに)

とりあえずパフォーマンスだけ測りたいので、この差異は無視することにします。

エントリーナンバーD: fold (Stringのキャパシティを指定する)

fn d(bench: &mut Bencher) {
    bench.iter(|| -> String {
        STRS.iter().map(|s| s.trim()).fold(
            String::with_capacity(STRS.get(0).unwrap().len() * STRS.len()),
            |mut acc, cur| {
                acc.push_str(cur);
                acc.push_str(", ");
                acc
            },
        )
    })
}

エントリーナンバーCでは fold の初期値で String::new() としましたが、これだと確保したキャパシティを超えるたびにメモリの再アロケーションが発生し、効率が悪そうな気がしたため、あらかじめ必要な領域を確保しておくと効率がいいんじゃないかと思ってやってみました。

エントリーナンバーE: fold+ 演算子 (Stringのキャパシティを指定し、文字列連結を + で行う)

fn e(bench: &mut Bencher) {
    bench.iter(|| -> String {
        STRS.iter().map(|s| s.trim()).fold(
            String::with_capacity(STRS.get(0).unwrap().len() * STRS.len()),
            |acc, cur| acc + cur + ", ",
        )
    })
}

エントリーナンバーC, Dで push_str しているところを + にしたら変わるのかなと思ってやってみました。

※ これはベンチマークをとったあとに調べていて発見したのですが、 https://doc.rust-lang.org/src/alloc/string.rs.html#1970-1978 を読むと push_str+ は等価っぽいです。

エントリーナンバーF: itertools::join を使う

fn f(bench: &mut Bencher) {
    use itertools::Itertools;
    bench.iter(|| -> String { STRS.iter().map(|s| s.trim()).join(", ") })
}

圧倒的美しさですね。Aで気になっていた「ベクタを経由するのが無駄っぽい」というマイナスポイントが解消されています。素晴らしいです。

ベンチマーク結果

$ cargo bench
------中略------
test a ... bench:     106,045 ns/iter (+/- 16,800)
test b ... bench:     162,460 ns/iter (+/- 23,986)
test c ... bench:     174,002 ns/iter (+/- 22,692)
test d ... bench:     167,454 ns/iter (+/- 15,830)
test e ... bench:     171,400 ns/iter (+/- 25,176)
test f ... bench:     327,217 ns/iter (+/- 36,332)

test result: ok. 0 passed; 0 failed; 0 ignored; 6 measured

表・グラフにすると以下のようになります。

テスト番号処理内容Performance (ns)測定誤差
Acollect してから join106,045+/- 16,800
Bitertools::Itertools::intersperse を使う162,460+/- 23,986
Cfold (Stringのサイズを指定しない)174,002+/- 22,692
Dfold (Stringのサイズを指定する)167,454+/- 15,830
Efold+ 演算子 (Stringのサイズを指定し、文字列連結を + で行う)171,400+/- 25,176
Fitertools::join を使う327,217+/- 36,332
benchmark

itertools::join は明らかに遅いですね。あんなに美しいのに……

結論

  • itertools::join はシンプルで可読性が高いが、パフォーマンスが悪い
  • パフォーマンスを求める場合は collect してから join する
  • folditertools::Itertools::intersperse はわざわざ使う必要はないと思う

今回使用したコードはこちらのリポジトリにあります。

おまけ: なぜ itertools::join は遅いのか

こちらのStack Overflow のSebastian Redl氏が以下のように回答しています。

SliceConcatExt::join can calculate the needed size for the full string ahead of time and thus definitely doesn't need to reallocate during accumulation; whereas the other methods may have to reallocate the string.

itertools::join が遅い、というよりは、collect してから join する方法だと最初に結合後の文字列を置くのに必要なメモリサイズを計算して確保するため、再アロケーションが必要ないから速い。ということのようです。

(ということだったら String::with_capacity()fold を使う方法でも同じくらいの速度が出そうな気がしますが、そう単純な話でもないんでしょうか。Rust、難しい……)

※ 2020/1/6 追記 ※

@ubnt_intrepid さんからコメントをいただき、 itertools::joinソースコードを確認すると、文字列の連結に write! マクロを使用していて、これがオーバーヘッドになっているために遅くなってしまっている、ということでした。

write! マクロの内部処理等に関しては以下のエントリが大変参考になります。

Rust の文字列フォーマット回り(改訂版) | ubnt-intrepid's blog

itertools::join の内部では size_hint() を使用してあらかじめ連結後の文字列を置くのに必要なメモリを確保しているため、上で引用した「itertools::join は再アロケートが発生するから遅い」というのは事実ではなさそうでした。

References

rust - Join iterator of &str - Stack Overflow